ゆるゆるひとりごと

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ドラマSuccessionを観た!

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『サクセッション』、またの名を『メディア王〜華麗なる一族』。みんなサクセッションって呼んでるし、サクセッション(継承)ってピッタリすぎる原題。

 

前から気になっていたけどシーズン進んでるしU-NEXTだしな…と観ていなかったんだけど、最終シーズンで盛り上がっててTwitterのフォロワーさんにもおすすめされたので4月から一気見を開始。意外にもすんなり観れちゃってラスト数話はリアタイで。

 

マードック家がモデルのメディア王ローガン・ロイ、そしてその継承権を争う子供たちの話。めちゃめちゃ面白かった。

 

シーズン1の最初の方は正直全然乗れなくて「これ何の話?」となってたんだけど、シーズン1の最終話のローガンとケンダルのシーン観てやっと理解した。ズーム多用のカメラとか下品なジョークでコメディっぽく見えてるけどこれはとんでもない悲劇じゃん。

 

ドラマ全部の感想書くの難しいのでとりあえず最終話の感想。

なんか収まるところに収まったはずなのに虚無って感じ。最初から全員クソ野郎だな〜思って観ていたはずなのに、ローマンの「俺たちはみんなクソだからこれでいい」という結論にも納得できるのに、4シーズンかけてだんだん共感し始めていたからショック受けるっていう逆転現象。脚本家が「みんな最初から知ってたでしょ?」と言っているのが目に見える。

 

私はどうしてもケンダルを応援しちゃってたんだけど。実質長男で父親のそばに置かれながら痛めつけられて裏切られて、でも離してももらえなくて。「7歳の時に言われた」って台詞キツすぎたな。7歳の時にお前が後継者だと言われたのにシーズン1の第1話のあの仕打ちだなんてひどいわ。でもずっとローガンに認められることを求めながらローガンと同じ人間になることを拒否していた彼が、葬儀回でローガンになりつつあるのを目にしていたのでそうならなかったことに感謝すべきなのかもしれない。

最終話でのローマンとのあの暴力的なハグのシーン、恐ろしすぎて声出た。そしてウェイターの件を否定したのも見ていてあまりにもキツかった。だから仕方ないのかもしれない、ケンダルは器じゃなかったのかも。でもあんまりだな。

 

最後コリンがいるのも何とも言えない。コリンはケンダルが死のうとしたら止めるだろう。カールはローガンのお気に入りで、コリンはウェイターの件を知っている。

と書いてたら、ジェレミー・ストロングのインタビューで実際に(アドリブで?)フェンス乗り越えて飛び降りようとしたらコリン役の俳優さんが走ってきて止めた、と言っていた。なんてことだよ。水=死の気配というのもシーズン1から植え付けられているし。

 

唯一の希望はスチューイが「チーム・ケンダル」って言ってたことかな?スチューイはケンダルと一緒に事業でもやってね…。あとケンダルは双極症気味だと思うので一度病院へ行きましょうね。

そしてジェレミー・ストロング本当に素晴らしかったな。ドン底の時の身体を引きずるような演技も調子乗ってる時の見てる方が気まずくなるような演技もすごかった。特に好きなシーンはシーズン1の最終話、事故からローガンとの会話までのところ。あとはシーズン3のテレビ局の廊下をただ歩いているシーン。ひたひたと鬱が心の中に染み渡りふと自分がどこにいるのかもわからなくなるあの感覚がその数秒に凝縮されていた。ジェレミー・ストロングこれからも活躍してほしい!

 

ローマンは下品なジョークやレイシスト発言があってあまり好きじゃなかったんだけど、それも彼の一面でありつつ本音を隠す術でもあって。葬儀で泣き崩れるシーン辛かった。そしてそこからローマンはちょっと目が覚めたというか自分を直視せざるを得なくなったんだと思う。ローマンは身体的にも精神的にも他者から傷つけられることでしか愛や自分の存在を確認できないというのが悲しくてしんどいね。キーラン・カルキン、特に最終シーズンは凄かったな。

 

シヴは賢いのにいつも先走ったり嘘が発覚したりして自滅しちゃってて。私はシヴのトムへの仕打ちがかなり許せなかったので、トムが裏切るのも無理ないよなぁと思ってしまう。トムはトムでグレッグから見ればパワハラクソ野郎なんだけどこっちの関係もまた厄介で。トムはCEOになったけどマットソンと対等にやれるわけではなくきっとまた操り人形でスケープゴートだし、でもそれを承知で引き受けた。グレッグのおでこにシールを貼ったのはグレッグはこれからもトムの所有物ということだし、トムとシヴはお互いを許せないながらも一緒に生きていくのかな。最後の車のシーンのふたりの表情が素晴らしくて唸った。物語の最初とパワーバランスは逆転しているわけだけど、CEOではなくCEOの妻としての地位しか得られなかったのは悲しい。

 

そもそも子供たちに継承させたいが能力がないというジレンマからの話、最強に家父長制と血統主義で、そこから逃れられればこんなに悲惨なことにはならなかったんじゃないかな。最終話で突然ローマンが持ち出したケンダルの子供たちは血が繋がってないんじゃないかという話も結局はローガンがそれを良く思ってなかったということだし。しかもこれ、シヴも聞いたことはあったっぽいからケンダルのいないところで馬鹿にしてたってことよね?怖い。そしてローガン的にはシヴは女だからダメだけど、トムならシヴとの子供が産まれればオッケーだったのかもしれない。トムにとってもシヴにとってもその子供にとっても悲劇は続く。

 

誰も幸せにならない結末だったけど、凄いドラマを観たという充足感は凄い。金持ち一家のあれこれを笑うドラマと見せかけて虐待の影響と連鎖の話だった。ニコラス・ブリテルの音楽も最高だったし、リアタイで観れて本当に良かった。また最初から観なおしたくなっちゃったな。

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

アカデミー賞受賞おめでとう!

監督のダニエルズの真摯な人柄もうかがえたし、ミシェル・ヨージェイミー・リー・カーティスの受賞も嬉しいし、何よりキー・ホイ・クァンのスピーチに泣いちゃった。欲を言えばステファニー・シューにもとって欲しかった。

 

もうすでに映画館へ3回も観に行ってるけどまた行きたくなった。

 

はちゃめちゃで笑えるマルチバースのカオスからの着地が日々の暮らしや自分の人生、目の前の人への愛情や優しさというのがすごく良くて泣いた。観た後何となくこの平凡な日常を愛しく思う、そんな映画だった。

 

かっこいいイメージが強いミシェル・ヨーが生活に疲れて髪もボサボサな中年女性を演じていたのも良かったし、絶望した目を持つジョイと奇抜おしゃれファッションの数々を着こなすジョブ・トゥパキを演じたステファニー・シューも最高だったし、税金の監察官ジェイミー ・リー・カーティスも迫力だった。

 

でも一番好きだったのは優しくて弱気な夫ウェイモンド役のキー・ホイ・クァン。彼の優しい笑顔が映画を見終わった後もずっと頭の片隅にあってふとした瞬間に泣きたくなってしまった。

 

優しいけどエヴリンには馬鹿にされてて話も聞いてもらえないウェイモンド。離婚届を用意したけど、本当に望んでるのはエヴリンと仲睦まじく歳を取ること。

 

一方で国税局のエレベーターで急に現れたアルファ・エイモンドはまるでスパイ映画に出てくるみたいにクールでウエストポーチでカンフーできるヒーロー。エヴリンもだけど観てるこっちも「このエイモンドはカッコいいし頼りになる!」と思う。でもアルファ・エイモンドは説明が足りないしすぐにどこかへ行っちゃう。

 

エヴリンが映画スターになった世界のウェイモンドはエヴリンと結婚していなくてどうやら何らかのCEOとして成功していてスーツをパリッと着こなしてめちゃめちゃダンディ。『花様年華』のオマージュ世界でもあるし、もう完全にトニー・レオンみたいな色気がある。こんなの完全に恋に落ちちゃうよね。

 

でも結局、この話で一番強くてカッコいいのは元のコインランドリーの世界のウェイモンドなんだよね。Be kind.

 

人に親切にすること、クッキーを焼いて差し入れること、何にでもギョロ目シールをつけること。そうやってエヴリンの知らないところで彼がうまく解決してたことがたくさんあった。そもそも最初の税務署でもカラオケが経費に入ってたことを「うっかりミスなんです」と一生懸命説明してたし。(うっかりミスってhonest mistakeって言うんだね。なんかそれも良かった)

 

 

「どうでもいい」の毒が回ったエヴリンは納税期限もすっぽかして離婚届にサインして春節のパーティーの最中にコインランドリーのガラスを割る。ウェイモンドがギョロ目をつけてたバットで。全部壊そうと思えばきっと簡単に壊せる。人の心もそれまで積み重ねてきたものも。

 

でもそんなエヴリンを前にしてもウェイモンドは監察官に離婚届の話をして見逃して欲しいと頼む。「何もかも大丈夫だよ」と泣きそうな笑顔でエヴリンに言う。きっと泣くのを我慢しながら鼻歌歌ってガラスの掃除をする。こんな愛情ある?ウェイモンドが「愛」の体現すぎて泣く。

 

ジョイのベーグルが「全部どうでもいい」という虚無の境地だったとして、虚無主義に対抗できるのは「私はどうでも良くない」「あなたはどうでも良くない」と言うことだと思う。私は前にいた職場で「全部どうでもいい」モードになってて、傷つきは減るけど毎日心が少しずつ死ぬ感覚があった。どうでもよくないのに「どうでもいい」という鎧をつけて、その鎧の中で少しずつ朽ちていく気がした。

 

「どうでもいい」と人を攻撃したり殻に籠ったりすれば表面上は傷つかないけど、それって遅延性の死という感じがする。でも優しくなるためには無防備にならなきゃいけない。

 

だから優しさを選び取ることができる人って本当はめちゃくちゃに強いんだ。優しいことは弱いとか甘いとか言って馬鹿にされがちだけど、特に男性にはそういう目が向けられやすいけど(現にこの映画のウェイモンドもエヴリンや義父にそう思われていたし)本当は世界で一番価値のあること。エヴリンが学んだ「優しさで戦う」方法はもちろんファンタジー的ではあるんだけど、あれはウェイモンドのクッキーなんだ。

 

私はこういう「優しさこそ強さ」という話がすごく好きで、例えば『パディントン』とか『テッド・ラッソ』なんかもそう。そういえばテッド・ラッソもビスケット焼く系のおじさんだったね

 

母と娘の話よりもウェイモンドの優しさが刺さりまくっちゃったな。

 

「もし君がまた僕を傷つけたとしても、違う人生で君と一緒にコインランドリーと税金をやりたいと言うよ」

ここ数年で一番切なくてロマンチックなセリフ。